画家/坪山斉のブログ

日々の作品制作や展示に関することなどを書いています。

【エリナスの森】津田 直さんの展示を見た

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写真家の津田 直さんの展示に行って来た。会場は福岡天神のイムズ8Fにある三菱地所アルティアムで、展示期間は2018年4月28日(土)〜5月27日(日)である。

 

津田 直さんは1976年神戸生まれで、2012年より東京と福岡の二つの拠点で活動をされている。今回は、リトアニアの人々や自然の風景を津田さんの距離感で写し撮った作品による展覧会。タイトルは「エリナスの森」である。

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こちらの三菱地所アルティアムは、一度入場料を支払うと、期間中何度でも展示を見ることができる。(チケット持参で)

 

アルティアムで行われる展示は、現在活躍されているクリエイターやアーティストの企画が多く魅力的なものが多いので、私もよく訪れる場所だ。

 

今回は展示作品の撮影が不可であることから、記事中では展示フライヤーの画像を使わせていただいた。

 

森を巡るような展示空間

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「エリナスの森」フライヤーより


 展示会場の入り口には、黒の色鉛筆で描かれた非常に繊細な鹿の絵が展示してあった。その絵は津田さんの描いた絵ではなく、違う女性の作家さんの作品だった。

鹿の絵のタイトルは「エリナス」。

 

展覧会テキストによると、リトアニアの”エリナス”という言葉は鹿のことを意味するのではなく、神のようなものだったり、自然のことだったり、森の中に生きづく霊的なものだったりと、漠然としているものらしい。

 

津田さんの写真作品と並列して詩のような文章が展示してあり、それらを読むと現地の人もエリナスという言葉のはっきりとした意味は分からないということが伺えた。

 

鹿の絵は、森に生きる神のような存在として描かれているのかもしれない。

 

さらに展示会場の奥へと進むと、面白い空間が広がっていた。展示用の壁(パーテーション)が、部屋の中に斜めに不規則に配置してあった。小さい作品から大きな作品まで20作品以上はあったと思う。

 

壁が不規則に配置してあることで、ルートが定まらず、まるで森をめぐるような感覚になる。

 

 受け継がれる文化、森に生きる人々

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「エリナスの森」フライヤーより

 

様々な作品の中で、一番印象に残った作品は、火を撮った写真作品で、展示してある作品の中では大きな方だった。

 

一番奥の壁に展示してあったので、その作品を見たのは最後の方だったのだが、作品全体を通して、森などの自然や村の人々を撮った写真が多い中、火を見た時にそこに生きる人々の文化や文明が見えてくるようだった。

 

リトアニアには日本と同じく全てのものに神が宿っているという自然信仰があったようで、ヨーロッパの中では最後にキリスト教を受け入れた異端の国だった。エリナスという言葉が表すものが、日本人が昔から持っていた自然や生き物に対する畏敬の念とすごく近い感覚のものなのではないかと感じた。

 

その象徴として火が神秘的に見えたのだった。

 

リトアニアの自然や人々を写した風景写真の数々と「エリナス」という当地の言葉に含まれた漠とした何かは、8000km離れた世界を繋ぐものであると同時に既に失われた亡霊のように感じた。

 

その静かに漂う何かに惹かれる人は少なくないのであろう。