画家/坪山斉のブログ

日々の作品制作や展示に関することなどを書いています。

【画家 / 坪山斉】これまでの活動のまとめ


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私、坪山斉は2010年に東京藝術大学大学院を修了後、福岡に拠点を移し、現在まで絵画を制作してきた。

2018年は、5月に東京・青山のスパイラルホールで開催されるSICF19での展示と、夏以降に台湾での展示を予定している。

今後の展開も含め、この機会にこれまでの作品制作や活動を振り返りまとめてみようと思う。

 

2013年 / TAGBOAT ARTFES での展示

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2013年に浜松町で行われたアートイベント「TAGBOAT ARTFES 2013」での展示が、大学院を修了してから初の大きな発表機会となった。約120組の出展者がそれぞれブースに作品を展示し、ギャラリストや美術関係者が審査員をするこのイベントは、ブース形式の公募展である。

「自己内他者」をテーマにした作品を発表

「自己内他者」とは、自分の中に存在する他者としての視点のことである。このテーマを軸として、正面の壁に少年を描いたF100号の作品、側面の壁に風景や小作品という展示でブースを構成した。このテーマのきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災である。

 

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仙台が故郷だが福岡で生活する私は、震災以降、当事者にも完全な 傍観者にもなれないという感覚が常に心の中にあった。

そしてその不思議な他者感、自らの絵画世界の核となるべきものと捉えるようになる。

当事者でない第三者だからこそ見えるものもあるとし、「自己内他者」の普遍的重要性に気付き、それをテーマに制作をして発表した。

 人物の感情を排した表情に自己内他者を投影し、ポートレイト作品として描いた。

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ポートレイトを取り囲むように展示してある作品は、震災により倒れたビール工場のタンクや、架空のシェルターを配置した風景を描いた。

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「Object / Beer Tanks」72.7x91.0cm

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那珂川シェルター」14.0x18.0cm

 

 あくまでも公平な観察者として現代を見つめ、その本質を見出そうと試みていた 

 このタグボートアートフェスでは、ブース内の作品コンセプトの流れや作品の統一感や技術が評価され、グランプリをいただいた。

さらに、この展示での多くの出会いが後の作家活動に大きく影響を与えることとなり、私にとって大変重要な展示機会となった。

 

2015年 / 初の個展「Others」

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2015年に日本橋三越前にあるギャラリー「YUKI-SIS」で、初の個展をやらせていただいた。約半年前くらいから出品作品の制作にかかり、計12点の作品を展示した。

他者感をテーマに制作する

作品は徐々に彩度を落とし、2015年の制作では、私は白い画面へと向かっていた。人物の顔には表情というものが無いが、目にはある強い意思が宿っている。

風景はまるで霞がかるかのようにその像は薄れながらも、かろうじて形をとどめている。 

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「1407」33.3x53.0cm

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「1580」31.8x41.0cm

 

この2点の作品は、2011年の報道写真をもとに描いた作品である。

時空の隔たりがもたらす他者との関係性をテーマに、風景のタイトルには、震災から経過した日数を表す数字をつけた。

 

この個展では、ギャラリー全体が白い絵に覆われて、かすかに絵の中に景色を見ることができる。私はどこかに故郷である仙台の雪の原風景が自分の中にあるのだと再認識した。

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この展示で、震災をきっかけに取り組んだ作品シリーズに一区切りをつけた。しかし、これ以降の作品にも「他者」というキーワードが制作において大変重要なものとなる。

海外のアートフェアへの参加

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2015年はベルギーのブリュッセル、ニューヨーク、韓国の大邱(テグ)のアートフェアに出品させていただいた。

これまで海外の展示は、台湾でのグループ展のみだったが、2015年のブリュッセルが、私にとって初めての海外アートフェアの参加であった。

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今回のアートフェア参加により、私の作品に対する海外の人々の反応を知れたことはとても良い機会になった。

また、グループ展より規模が大きいアートフェアでは、より多くの海外の作家の作品を直接見ることができ、作家本人と作品について語り合うことができたのはとても大きな経験であった。

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2015年以降も、多くの国内外のアートフェアやグループ展に参加させていただいた。様々な国、人々から多くの刺激を受けることで、自分の作品を展示することで生まれるポリティカルな要素や歴史的背景などについて、より深い部分で作品制作を考えるようになった。

 

2016年 / 目をモチーフとした絵を描く 

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「目」53.0x53.0cm

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「eye」91.0x91.0cm

 

「The one / Iris 」シリーズの原型

2016年にYUKI-SISで開催されたグループ展「UFO has arrived at YUKI-SIS」に出品するために描いた作品が、目を描くきっかけとなった。 

この目を描いた作品では見るということに焦点を当てて制作した。 

 

それまでは「自己内他者」、「他者感」をテーマに制作をしてきたが、「見る」という行為が、他者を感じるための本質的な部分と深く関わっていると感じ、モチーフとして目を選んだ。

 

目の作品をきっかけに、2016年以降は目の虹彩をモチーフにした作品シリーズ「The one / Irisへと発展していき、自身にとって大きなテーマの一つとなっていく。

 

2016年 / 個展「ローレゾリューション・リアリズム」

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 絵画の機能を考える

 2016年のYUKI-SISでの個展は、目の虹彩を描いた作品を軸にして、鑑賞者が絵画を見ることに焦点を当てた展示を行った。

 個展のタイトルは「ローレゾリューション・リアリズム」である。

ローレゾリューション・リアリズムとは、低解像度のリアリズムという意味である。

本来、絵画におけるリアリズムは解像度を限りなく上げることで対象へと迫る手法。

ローレゾリューション・リアリズムでは、あえて解像度を下げることで鑑賞者の脳内での補完・補正を促し、独自のリアリズムを追求している。

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「The one / Iris#1」162.0x162.0cm

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「九の目と黒い枠」162.0x162.0cm

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「Dens」22.0x27.3cm

 

つまり、絵画と対峙する鑑賞者の見る力によって生まれるリアリティーが、絵画を成立させるということである。

この頃から、現代において表現の手法に絵画を選ぶ意味を強く考えるようになる。

2017年 / ニューヨークでの展示

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ニューヨーク・チェルシーでのアートフェア参加

2017年3月にニューヨークで開催された世界最大のアートフェアの一つ「The Armory Show」のサテライトアートフェアに出展した。今回はアートフェアへの参加から作品の輸送や搬入出を全て自分で行なった。

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目の虹彩を描いた120号の作品「The one/ Iris #3」と瞳孔を描いた10号の「Pupil #1」「Pupil #2」の計3点を展示した。

私の作品に対してまず聞かれた反応は、「作品のインパクトが強い」という事であった。

人の目がストレートに描かれた大きな絵は、私自身が見ても会場でかなり目立っていたように思う。

また、「等高線のように描かれたグラデーションが、とても美しく鑑賞者に迫ってくるようだ」という手法や技術面での意見も多かった。

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 今回は、アートフェア出展に係る全ての作業を自分で行ったことで、その楽しさや大変さを身をもって感じることとなった。現地で梱包材の一部が破棄されていたなどのハプニングに見舞われ、海外に出展するにあたって注意すべき点も多々学べた。

2017年 / 個展「symbolic」

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2017年の9月には、東京馬喰町にあるギャラリーラディウムーレントゲンヴェルケでは初の、自身としては3回目の個展を開催させていただいた。この展示では、S100号の作品「Iris」を3点囲むように展示し、鑑賞者が絵と対峙できる空間を作った。

絵画と鑑賞者の双方向性の関係

個展タイトルの「symbolic」とは直訳すると記号的な、象徴的なという意味である。モティーフのもつ情報や特徴を、記号的な色彩や形態へと変換する。その結果、鑑賞者は脳内で情報を補完することを余儀なくされる。

記号化(symbolic)への試みで、絵画と鑑賞者の双方向性の関係を築くことがこの展示のテーマである。

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「The one / Iris#5」162.0x162.0cm

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「The one / Iris#2」162.0x162.0cm

 

symbolicで展示した作品は、目の虹彩を描いた「The one」シリーズをさらに簡略化し、解像度を極限まで下げて描いた。

 

2018年 / これからの活動について

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5月に東京・青山スパイラルホールでSICF19に出展予定

5月のSICF19では、ポートレイト作品と目の虹彩部分を拡大して描いた作品による構成の展示を予定している。今回は、これまでのテーマであった「見る」ということや「絵画の機能」に加え、「個」を強く意識した展示にする。

 

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「Combine Portrait 003 」53.0x45.5cm

 

「Combine Portrait」とは、「組み合わせた肖像画」という意味の造語。

特定のモデルを置かず、実在する様々な人物の顔の部分を組み合わせ、新たな顔を創り出す。

「誰でもない誰か」を創り出し、それをポートレイトとして描くことが目的である。

 

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「Light #4」41.0x32.0cm

 

「Light」シリーズは、目の虹彩をモチーフにしている。一見何が描かれているのか判別はできない。しかし、虹彩は個人を特定することができる重要な情報である。

 

SICF19のブースでは、「実在しない人物像」と、「個を特定する情報」を描いた2つの絵画シリーズによる展示構成を考えている。

 

まとめ

今回は、2013年から2017年の活動を大まかに振り返ってみた。この5年間で、個展を3回、グループ展に国内外で15回、アートフェアには国内外で15回参加させていただいた。

これまでの活動を通して、「何をどう表現するべきか」を考え形にするという過程を幾度となく繰り返す中で、少しずつ作家として成長してきたように思う。それは、当然自分1人の力ではやってはこれなかった。これまで関わっていただいた方々へ、深く感謝している。

2018年5月のSICF19の展示では、新作の作品を8点ほど展示する予定である。「個」にフォーカスした新たな視点をお見せできればと思う。

 

SICF19
会期
2018年
A日程 4月29日〜4月30日
B日程 5月3日〜5月4日
C日程 5月5日〜5月6日(ここで展示します)

11:00-19:00


入場料

一般・一日券 / 700円
一般・全日程通し券 / 1,200円
学生・SICFの公式Facebook, Twitterに「いいね!」「フォロー」で無料

会場
スパイラルホール(3F)
東京都港区青山5-6-23
地下鉄銀座線・千代田線・半蔵門線「表参道」駅 B1,B3 出口すぐ

公式HP http://www.sicf.jp/
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Instagram sicf_jimukyoku